紙のメモに勝るものはない

コンピュータを使った情報整理はもちろん役に立つものですし、そこにまとめた情報をあとで再利用する際にも便利です。キーボードの扱いがほどほどうまくなれば、結構なスピードで文字を入力することもできますから、たくさんの情報を短い時間で記録する目的にも合っています。

それでもなお、筆者は紙にボールペンとか鉛筆を使って情報の整理をすることが多いですし、これに代わる方法で同じことができるとも思っていません。これだけ言うと、まるでデジタル化にすっかり取り残されたオジサンといった様相ですが、別に、作図ソフトやワープロが苦手なわけではないですよ。必要があれば何でも使います。

紙のメモは、とりとめなく浮かんでくる考えや、目の前で繰り広げられる込み入った議論や、自由にアイデアを出し合うような場面で、最も素早く、ビジュアルな印象込みで情報を整理することができます。別に難しいことを言っているわけではなく、大事な言葉をマルで囲ったり、因果関係などでつながるものを矢印でつなげたり、二つに分けて考えるべきものを分岐させたり、ごく簡単なイラストを記して、登場するのが建物なのか、人間なのか、文書なのか、データベースなのか、といった違いを一目で表したり、まだ不確かな状態だと思うものにハテナマークを書いたり、そういう程度の話です。

紙の中央部分には議論の中心的な要素を書き、それから連想されて出てきた話題は周辺に書く、ということで、議論のそもそもの中心を見失わないようにという工夫も簡単です。あとで余分に思いついたことがあれば、似たような要素の近くに適当な空白を見つけて、そこにチョイチョイと書き足して、サラッと線でつなげばよいです。PC上でやるときみたいに、マウスでドラッグしてスキマを空ける、なんてまどろっこしいことをする時間はいりません。

さらに色鉛筆なんかも使いこなせれば最強で、似た要素と思われたものには同じ色のアンダーラインを引いていくだけで、あとから特定の要素のことだけ抜き出して考えたいときに、視覚的に一瞬で情報をフィルタすることができます。

どんな情報システムが欲しいのですか、どんな問題を解決するためにそれが必要なのですか、というヒアリングをするときには、複数人数で、同じ紙をにらみながら議論を展開していくことがあります。そんなときは、思い切って大きな紙を使うことも多いです。A4だとちょっと小さすぎで、A3があればまあまあです。

ここでユーザーはこういう操作をするんですね、という確認をするために、人物のイラスト(ヘタですよ、もちろん)を書き添えてみたりすると、打ち合わせの参加者は、なるほどこれが自分か、と想像しながら周りの情報を眺めることがでますから、思いのほか積極的に業務内容を教えてくれたりするようになる、ということも珍しくありません。

紙の上でいったん整理し終わった内容を、必要があればあとでコンピュータを使って清書するわけですが、そのときに、ずいぶん精密な議論ができたのだな、と気づくことがあります。そのくらい、紙のメモに含まれる情報は豊かなことがあります。

しいて難点があるとすれば、ときどき漢字を忘れているのに気づいて悔しくなる、とか、自分の字が下手なことがイヤになる、とか、そういうところでしょうか。字の下手さは自分ではちょっとあきらめてますが、漢字は簡単に忘れたくないし、カナと比べて一目で読めるという強力さもあるので、そのつど復習して、できるだけちゃんと書けるように努めています。手書き文字なんてほとんど書く機会もなくなりそうな時代ですが、それでも、漢字がちゃんと書けるのって楽しいと思うんですよね。ここは単に個人の趣味ですけれど。